第5章 この子を残して

 

博士には誠一(まこと)と茅乃(かやの)という二人の子供がいた。子供たちは疎開先で原爆の難をのがれた。
博士は、母親を失いやがて孤児となる二人の運命を案じていた。その思いや愛が、後に数々の名作を生み出す原動力となる。

 

墨を擦って手伝う誠一君
墨を擦って手伝う誠一君

 

 

「一月でも、一日でも、一時間でも長く生きていて、この子の孤児となる時をさきに延ばさねばならぬ。一分でも一秒でも死期を遅らしていただいて、この子のさみしがる時間を縮めてやらねばならぬ。」
(永井隆著「この子を残して」より)

 

子供たちと一日でも長くいたいという思いが
子供たちと一日でも長くいたいという思いが 

 

「私がやっぱり眠ったふりをしていると、カヤノは落ち着いて、ほほをくっつけている。ほほは段々あたたかくなった。何か人に知られたくない小さな宝物をこっそり楽しむように、カヤノは小声で、
『お父さん』
といった。それは私を呼んでいるのではなく、この子の小さな胸におしこめられていた思いがかすかに漏れたのであった。」

(永井 隆著「この子を残して」より)

 

父子三人とマリア像
父子三人とマリア像

 

博士の身体は、白血病の影響でヒ蔵が肥大し圧迫による内出血の恐れがあるので、子供たちを近づけることができなかった。

 

  博士は自らの身体を被爆医療に捧げた。
 博士は自らの身体を被爆医療に捧げた。